2016年7月15.16日に登った記録の二日目です。
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夜が明けた。
ガスってはいるものの、雨はやんだままのようだ。
不肖小生の股関節といえば・・・
OK!回復しているじゃないか。
ありがたや三条の湯。
傷を癒やした鹿の気持ちがよくわかったのである。
さすがに肌寒いので、昨日乾かしたレインウエアーに袖を通し、日の出とともに出発ス。
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◎亀足コースタイム(休憩は含んでいません)
あくまでも小生の足弱+撮影ペースなので、一般タイムとは異なります。
○二日目
三条の湯<105分>カンバ谷<60分>北天のタル<45分>飛龍山<20分>飛龍権現<45分>前飛龍分岐<60分>熊倉山<30分>サオラ峠<40分>丹波天平<40分>標高892m地点<40分>親川バス停
Total=8H05M

◎距離14.9km 累計標高差(+)1263m、(-)1804m


小屋の裏手からカンバ谷を渡るまでは、なかなかの急登。
さすがに昨日の今日、怖いのでペースを落として慎重に歩みをすすめる。
木々も闊葉樹に加えて樺なども増え、徐々に奥秩父感が濃くなっていく。
よきかなよきかな。
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トレイルが尾根を乗越してトラバるようになると、奥秩父主脈縦走路と変わらないような植生となってくる。
背丈が短く葉の細い笹が両脇に続き、少しづつ幽玄の気分へと導いてくれる。
股関節の具合はいいようだ。ありがたい。
歩みをを普段のペースに上げ、トレイルをたどって行く。
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ほどなく行くと、右側の稜線が落ちてきて北天のタルに着く。
奥秩父主脈縦走路に飛び出した。
あたりはガスの中。
今の季節、これもありかな。
森がみずみずしく輝いているのだ。
ここで一本。
久々に主脈縦走路へ立てた喜びを噛み締めながら、山の神様、亀足天皇、三条の湯、そして怪我を癒やしていた鹿に感謝するのである。

北天のタル

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先が長いので感謝の儀式はほどほどに、腰を上げて主脈縦走路を飛竜山へと向かう。
不肖小生は、この森深い奥秩父が大好きなのである。
良く「若い時は南八ヶ岳、大人になれば北八ッの良さが分かる」と云ったものであるが、なるほどそれは奥秩父にも通じるであろう。
いやいや奥秩父は、北八よりも谷が深く尾根も長い。
絶天からの展望で古生から形成された山の奥深さを感じることができるのである。
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飛竜山のテッペンは、主脈縦走路より北に外れている。
一般のトレイルで行くと、山頂南肩にある飛竜権現からのピストンとなってしまうのだ。
ここは山頂の東側から踏み跡を拾って山頂三角点に達し、一般のトレイルで飛竜権現に出ることにする。
トレイルが尾根から左に外れるようになると、左手にある踏み跡を見逃さないように注意しながら歩く。
ほどなく行くと笹の中に稜線へ向かう踏み跡を見つける。
ちょうどそこは「31/32」の林班境界の標識があり、赤テープも木に巻かれていた。
霧に煙る樺や栂の森へ足を踏み入れていく。
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笹の丈は、およそ膝上ほどのもの。
よく見ていけば、笹に埋没する踏み跡は容易に拾っていける。

この山の呼称は「飛竜山」とも「大洞山」(おおぼらやま)とも呼ばれ、地形図にも両方が列記されている。
それは丹波山側と秩父側とで呼称が違っていて、丹波山側は飛竜権現を祀る山だから「飛竜山」、秩父側からは里の大洞川の源頭の峰であるから「大洞山」と呼ばれているそうである。
ちなみに2077mの飛竜山は丹波山村の最高地点となる。大菩薩嶺より高いのである。

トレースを拾って50mほど標高を稼ぐと、あたりの笹が消えて栂など針葉樹林の広い尾根となる。
気持ち左手へと高みをたどっていくと飛竜山頂に着いた。
そこは針葉樹林に囲まれた静かな山頂。
あの雄大な山容からすれば、地味すぎるピークとも言える。
展望も効かず山頂標もない。
不肖小生が愛してやまない小暮理太郎氏の紀行「霜柱と柿」では、この山頂にたどり着いたときのことを「眼先の森林が破れて草原に出た。」と記している。
ほとんど人の入らない大正5年の頃は、明るい草原の山頂で眺望にも恵まれていたのであろう。
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早々に二等三角点にタッチを済ませて山頂をあとにする。
明瞭な南へのびる尾根のトレイルをたどって降りていく。
ちょっと石楠花の硬い枝がうるさいが、薄暗い栂の森と苔に包まれた古生の石などが幽玄の世界へと誘っている。
小暮理太郎氏がこのあたりを登りにとったときは「間もなく栂の繁った山腹を登り始める。暖かい日の光は緑の深い樹蔭に吸い込まれて、途中で消え失せてしまう。」と記している。
おそらくココは、変わらぬ奥秩父の森の一つなのであろう。
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森の中を思い々々のトレースを付けて降り立ったところが、山名の由来となる飛竜権現である。
この飛竜権現には竜神様が祀られている。
竜神は雨をもたらす神であり、焼畑を主とする丹波山村の里人は農耕の願いを込め節目々々に詣でていたのであろう。
この神社の由来にも伝説が残されている。
「その昔、ふもとの丹波山村に木彫りのご神体を祭った祠があった。この竜神が村人の供え物が少ないとヘソを曲げ、暴風雨をまきおこし草木を枯らしてしまった。恐れた村人は、暴れ疲れて大木の股で休んでいる竜神にひれ伏し、供え物を多くすることを約束して大木の根元に祠を建てて祀った。その後は竜神も大人しくなり再び暴れることはなくなった。」という・・・
供え物が少なくて機嫌を損ねるなんて、どうも日本の神様たちはとても人間臭いものであるな。
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竜神様の前で湯を沸かし一本とる。
さあここから長い々々丹波天平への尾根道となるのだ。
雨こそ降らずに助かっているのだが、あたりはガスの中。
座っていると標高2000mではサスガに寒い。
昨日発症したシビレは、いまだ姿を見せていない。
ホントに三条の湯の効能なのか分からないが、このあとは標高を落としていくので大きな不安は薄らいだ。
この飛竜権現からほんの少し主脈縦走路を竜喰山側へ行くと、「禿岩」(はげいわ)という絶景ポイントがある。
しかし真っ白なこの天候。眺望を楽しみにしていたのだが、なにも望めるはずもなく今回はパス。
幽玄の森を求めて尾根を下り始める。
今日の終着の親川は、およそ1500m下にある。頼んだよ股関節くん。

少しの急降下をこなして登り返していくと、岩が現れはじめ、行く手がポッカリと明るく抜けている。
前飛竜のピークである。
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前飛竜は、飛竜山の支峰とされる1954mの岩峰である。
おそらく好天のときは、眺望のきくピークであろう。
山頂標の横には東京都水道局の図根点が埋設されていた。
なるほど、ここを西面に降りていけば大常木谷に通じる東京都の水源域になるのだ。
しかし、何のために測量が入ったのであろうか気にかかるな。
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標高も1700m圏あたりまで降りてくると、いよいよ幽玄の森に踏み入った感が強まる。
下草の少ない闊葉樹の森は、老木も幼木も混成して気のままに伸びている。
なにやら木々たちの勝手自由さが微笑ましく感じる。
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静かなピークの熊倉山を越えて美林の尾根歩きはつづく。
ふとトレイルの左手を見ると、霧の中に巨木が倒れている。
まるで幻想の森に迷い込んだようだ。
こんなところで妖精や木霊が遊ぶのではないだろうか。
この木はどうしたのだろう。
まだ枝につく葉は青々としている。
そのうち身体にキノコをまとうようになり、ゆっくりと朽ちて山の土に戻っていくのだろうな。
この森に山の神様はいるぞ。
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逍遥気分でトレイルを追っていると、いつの間にかサオラ峠にたどり着く。
ここは三条の湯、丹波山から来るトレイルが交差する十字路。
ショートコースで天平を楽しむには、外せない要衝地である。
サオラ峠は現地で竿裏峠(サヲウラ峠)と呼ばれ、道標などもそれに統一されている。
ここも、国土地理院もしくは陸地測量部の役人さんの聞き(書き)間違えからできた地名なのであろうか。
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なだらかに標高を落としていくと尾根の幅もぐんと広がり、まさしく森歩きといったようになる。
丹波天平である。
落ち葉が被さる思い々々のトレースはうすくなり、闊葉樹の森を「どこでも歩いていいよ~」と云われているようだ。
まさに今回のプロムナード。これに憧れていたんだ。
しかし、ここに雪がついたらコンパスなしでは歩けないな。
尾根を外さないように・・・といっても、もうこれは尾根とは思えない平坦な森。
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丹波天平・・・・
天平(てんでいろ)とは「天辺が広い山」という意味だそうだ。
まさにピークとも言えないような1343m点をすぎると丹波山への分岐となる。
マイナスイオンがたっぷりの、この気持ちいいところに無粋なものは電波塔・・・
里の生活は大事ではあるが、そこは工夫というものがあるだろ。
もっと目立たないところに立てるとか・・・
不肖小生は残念でならない。
あまりに残念なので写真も撮らなかった。
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二重山稜ではないがそのような棚が並列するところを降りていく。
突然バリバリバリッ!
ビックリするような音量。
ドサ~ッ!
なんの音かと思う間もなく、前方の老巨木がトレイルの上へ倒れた。
距離にして30mほどか。
幹の直径が2mもある老巨木の臨終に立ち会った。
倒れた後のその場の空気は、霧がが立ち込めてなにやら神々しい。
やはり、この森に山の神様が絶対いる。
しかし、不肖小生が数10歩先を歩いていたら・・・・
亀足の神になっていたかもしれない💦

ここまできたら、いったん尾根をからんで親川バス停までは標高差500mの下り。
何やら立ち去るのが寂しいような尾根であった。
「四季を通じて様々な表情を見たい」という衝動にかられてやまないのである。

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不肖小生の股関節も無事で、憧れの玄幽樹林を漫歩することができました。
天候は霧ではあったのですが、想像以上の良き美林、良き山旅でした。
いやぁ初日にシビレが出ちゃたときは、二日目がどうなってしまうか心配だったのですが温泉でリフレッシュできたのでしょうか。
しかしこのシビレは原因がわからずに発症するので、対応のしようがありません。
消極的に考えれば山に入ることは危険なのですが、それでは一生歩けません。
しっかりと登山届やエスケープなど対策をとって、この股関節と付き合って行くつもりです。
ここまで歩けるようになったことを感謝して、現在の身の丈に合った山行きを心がけようと思っています。
さあ、次回も奥秩父を逍遥するつもりです。

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